「ウェルカム・ホーム!」(鷺沢萠)

「ホーム」とは「帰るべき場所」。

「ウェルカム・ホーム!」(鷺沢萠)
 新潮文庫

「ぼくの家には、
お父さんがふたりいる」。
そう書きだした
小学校6年生の憲弘の
作文を見て、毅は絶句する。
確かにわが家は
憲弘と父親の英弘、
そして自分の三人家族だ。
でも、 これでは周囲の人間に
誤解されるのではないか…。
(「渡辺毅のウェルカム・ホーム」)

外資系企業に勤める
キャリア・ウーマンの
律子のもとを、
久部良拓人という若者が
訪ねてくる。
彼は律子に会うなり
「聖奈と結婚したい」と告げる。
聖奈は別れた夫の連れ子であり、
律子は5年も
会っていなかった…。
(「児島律子のウェルカム・ホーム」)

2編の小説が収められている
鷺沢萠の傑作小説です。
ここに描かれているのは
「フツーでない」家族の姿です。

毅と英弘は大学の同級生。
同時期にお互いに妻と別れ、
毅は収入がないが家事はできる、
英弘は仕事が忙しく
子どもの教育を含めた
家事をする余裕がない。
そこで毅が英弘の家に
転がり込んだのです。

律子は聖奈を心から愛して
育ててきたのです。
そして夫と別れる際、
彼女を残してきたことを
後悔しています。
しかし聖奈は夫の連れ子であり、
また反抗期の真っ只中であったために
それが叶わなかったのです。

毅にとっては
憲弘は友だちの子であり、
本当の父親ではありません。
でも、
実の「母」以上に憲弘をしっかりと育て、
憲弘もそれを受け止めているのです。

聖奈もまた継母である律子と
喧嘩別れしたことを
悔やんでいるのです。
そして実の父や現在の継母よりも
律子との絆を強く感じているのです。

かつてあった「普通の家族」の枠組みは
すでに崩壊しています。
家族の形に「普通」も
「普通でない」もないのです。
終末で毅が口にした
「誰もフツーじゃないし、
 誰もフツーじゃないんだから、
 逆にみんながフツーなんだよ」

が全てを語っています。
そこに愛情が通っているかどうかが
大切なのでしょう。

「ホーム」とは「帰るべき場所」。
出自や家族の形に
こだわり続けた作家・鷺沢萠。
自らの命を絶った1ヵ月前に
発表(2004年3月)されたのが
本作品であり、
彼女の遺作となってしまいました。
己の作品の中で完成させた
愛情に満ちあふれた家族の姿を、
自らはつくりあげることなく
旅立ってしまったことを考えると
やるせない気持に襲われます。

※長らく絶版状態だったのですが、
 最近表紙をリニューアルして
 復刊していました。
 以前の表紙の方が
 センスがあると思うのですが…。
 ぜひどうぞ。

(2019.10.24)

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